ただ生きることに弱肉強食は必要ない。

綺麗可愛い若い面白い声が大きいなど一芸あるものを除いて、年老いたり魅力無くなったものが淘汰されるのは、ニューハーフ時代に嫌ほど見てきました。

ニューハーフであることを生業にして、お金もらってる以上は、当然の事です。

ニューハーフなのですから、綺麗可愛いは当たり前、トーク力があって当たり前。

それがないのなら、お客様は本物の女の子のお店に行きますから。

女より綺麗で可愛く、喋れば面白く無ければ、ニューハーフである価値はないと、口酸っぱく教えられてきました。

お客様から選んでいただいて、なんぼの商売ですから、自分自身に何かしらの魅力が無ければ生き残れません。

また、いつでも単独で働くわけではありません。

時には、メインを立てながら、自分を抑えてサポートに徹しなければならない時もありますので、チームワークもちゃんとできなければなりません。

自分を出して引いてのバランスも大切です。

私が居たのは、ショービスの世界でした。

ですので、ダンスにコミックのどちらも、またはいずれかが出来て当然、かつ客席同様自分の魅力をしっかり、お客様に気づいてもらわなければなりませんでした。

それが将来的な売り上げになるのですから、自分の魅力を探しては、試しての繰り返しです。

魅力に気付けず行き詰まり、魅力を見出せないままのもの、年老いたもの、そもそも仕事について来れなかったもの、お店に馴染めなかったものは、居場所を失い、お店から立ち去らなければならない状況になります。

売れるものは残る。売れないものは去るのみ。

それが当然のことだと、何も疑問を抱くことなく弱肉強食の中で、一日一日を過ごしていました。

私が、ニューハーフのお店に入り、まず初めにトーク力をつけるためにと、教育係としてついてくださった先輩ニューハーフのお姉様がいらっしゃいました。

物腰柔らかく、教え方も丁寧で、接客スタイルは、一般人がよくニューハーフをイメージするようなキャラが強く、喋り出したら止まらないお姉言葉のマシンガントークのような強引なキャラ押しなんかではなく、話すより聴く側に回ることの方が多く、それでいて上手に客席全体を心地の良い笑いに誘うという流れる川のせせらぎのような心地のよいものでした。

それでいて、舞台に立てば、長身で締まった綺麗なラインのスタイルを武器に、お客様を魅了し、それはそれは大層人気のある方でした。

もともと、ニューハーフになる前から喋りを武器に働いてこられてきた方でしたから、水商売に入ってから喋りを磨き始めた、他のニューハーフと比べて、一つも二つも技術的に上をいっていたのは、至極当然なのかもしれません。

彼女のトーク力は、皆が認めるところでした。

当時、性転換が決して走りではなかったにせよ、そこまでする人が、まだ多くなかった時代でしたから、そんな中では最先端を走る方だったのかなと思います。

そんな彼女がお店を辞めてから数年経ってからのこと、風の噂に体調を壊したと聞きました。

それから暫くしてのこと。彼女は、お店に出戻りとして戻ってきたのです。

その姿は、私の知る彼女とは、全く別人のようでした。

ホルモンバランスの影響もあるのかもしれませんが、やはり浮き沈みが激しく、眠れなくなったり、鬱症状が現れたり、お酒や男に溺れてしまったり、、、

そんな方も少なくはありませんでした。

彼女もまたそんな1人でした。

それでも、私は彼女のトーク力を尊敬していたし認めていました。

彼女が悩む不調の治療のために出された薬の副作用なのか、うまく呂律が回らず、伝えたい情報の分だけ口が動いてくれないもどかしさが隣に座っている時にも、痛いほど刺さってきました。

次第に、周りの若手を中心に、その姿を面白おかしく真似たり、茶化すようなことが目立つようになりました。

それは、本人の目の届かない場所ではなく届く場所で行われるのです。

残酷なものでした。

彼女の最も輝いていた時代を、私も知りません。

ですが、彼女がまだこうなる前の姿は、私は見てきてたくさん勉強させていただきました。

その時、彼女を笑った若手たちは彼女の当時を見てきたものはいませんでした。

若手たちからすれば、ただの呂律の回らない変な奴だったのでしょう。

それから、しばらくして彼女はさらに体調を崩し、お店にも来られなくなりました。

それ以降、彼女を見ることはありませんでした。

というよりも、もう見られないのです。

どれだけ、接客のトークについて質問したくても、隣でまた聞かせて欲しくても。

もう、それは出来ないのです。

残酷ですが、それが私の生きてきた世界です。

他にも、若い頃はチヤホヤされていても、最後は、男に溺れたり、お酒に溺れたり、ギャンブルに溺れたり、そうやってどんどん居場所をなくし、消えていく人は、たくさんいました。

自分のお店を立ち上げて独立や、他店からの引き抜きなどは、ほんの一握りです。

そういう世界でした。

今は、私は現役ではないので分かりません。

あくまで、私が現役だった15年から20年も前の話です。

話は現在に移りまして、最近SNSを見ていると、パスできているMTFが出来ていないいわゆるノンパスのMTFに対して、きつくあたる場面を、よく見かけます。

別にトランスジェンダーを生業としてるわけではないので、別にパスだろうがノンパスだろうが、構わないはずなのに、それを甘えだの、出来ないことに対してのただの言い訳だの、自業自得と切り捨てるような内容について、吐き気のような強い不快感を覚えました。

なぜなら、ニューハーフの時に、イヤほど見てきた弱肉強食を表す様子とかぶるものを感じたからです。

MTFは、一括りにしてMTFであることを生業に所属するアイドルでもタレントでもありません。

若いうちには、どれだけ綺麗で可愛くても、技術面が長けていても、生き残れるのは、たったの一握りです。

技術不足や心身共々体調面での躓きなど、明日には何が起こるかわかりません。

いつまでも、強くあり続けるなんて出来ないのです。

いつか、自分も淘汰されるかもしれないなんて、考えたことありますか?

考えたこともなく、現場にのぼせあがり、自分自身に酔いしれ、弱った仲間を淘汰してきた人が、次の世代から容赦なく淘汰されていく姿を、私は見てきましたから分かります。

もし、私達の日常そのものが弱肉強食の世界であるならば、いつかは、一握りの人間を覗く誰もが淘汰されることになるでしょう。

そして、私も。

年老いた時、魅力を失った時、体調を崩した時など、何かしらのタイミングで。

ただ、日常って。

みんなそれぞれに生きている。ただそれだけなんです。

そんなものに、弱肉強食なんてないし、あってはいけないはずです。

確かに、一般人は見た目で人を判断します。

ただ、それだけのことです。

なのに、なぜ同じ当事者でありながら、パスできるものがノンパスを叩くのか、私は理解できません。

パスできるあなた方がそうであるように、ノンパスの方も今この日常を生きています。

ただ、それだけではないでしょうか。

なにが、そこまでパスできるあなた方を熱くするのか私にはわかりません。

もし、生きる事にも、そのような弱肉強食を目指し、それを他人にも押し付けようとするなら。

そんなに自分を試したくてたまらないのであれば、それを生業とした世界で、そんな世界がもしあるのならば、その中だけでやっていただきたいものです。

少なくとも、私には、そんな世界は必要ありませんし、そんな世界には行きたいとは、そもそも思いませんが。