
少し前に、性同一性障害の札というのがあると知りました。
Twitterでそれについての動画を見つけたので、夫と見てみました。
「あっ!この人!」
夫が驚き声を上げました。
「知ってるの?」
と聞くと、以前大阪の住吉区に住んでいた頃に、うちの夫がLGBT関係の講演会に話を聞きに行ったことがあり、その時に壇上でお話をしていた人だったそうで、その時お土産にと買ってきてくれたカミングアウトアイテムとしてオシャレな携帯カバー買ってきてくれたのですが、
「あぁ、あの時の!」
夫は、
「その講演会は凄く良かった。また行きたい!今度は一緒に行こう!」
と話してくれていたのですが、その後鹿児島に引っ越すことになり、それきりになっていました。
それから、おおよそ1年が過ぎ、まさか動画でまた見られるとは思いませんでした。
ただ、前半部分は、お酒でも飲んで酔ってるの?って思うような感じで、とにかく驚いたのを覚えています。
(素直に受けた印象を書かせていただきました。申し訳ありません。)
でも、これだけを伝えたいわけじゃないだろうと、最後まで観ました。
将来的にこんな札必要ない世の中を目指そうということ、頑張ってるのにパスに至っていなくて、辛い想いをしている人に力を貸したげてと言っていた事に、私はその通りだなと思いました。
当事者でない人は、当事者の存在に気づかない。だから知る機会がない。
もし、知ることができたら、その人が当事者に抱くイメージは変わるかもしれない。
そうやって理解が進めば、札なんかなくても良くなるということなのかなと思いました。
それも一つのアイデアだし、早速取り掛かろうという話ではないし、私は私自身に札は必要ないし、持つことはないでしょう。
埋没して生きていますし、現状トランスと明かしていきたいわけではないので、それを明かす状況があるのは私にとっては、物凄いストレスになるからです。
でも、夫があおいさんの講演会のお土産に買ってくれたカミングアウトグッズは、今でも大切に使っています。
私はそのグッツを使って、例えば友達などとLGBTの話になった時に、トランスジェンダーについて偏見や勘違いなどあれば、そうじゃなくてみたいなふうに話をすることはできるのかなと、ずっと持ち歩いています。
あおいさんも言ってるように、札は必要な人は使えばいいと思うし、必要ないなら必要ないでいいのかなって思いました。
私が道半ばの時は、埋没という立場ではなく、ニューハーフでした。
それでも、プライベートではやはり他人に知られたくなかったし、特例法なんかまだなかったけど、私は女として生きたいと思っていましたし、元男として周りから接されるのは苦痛でした。
元男と知られた上で女のように扱われることを望んでませんでしたから。
身体は完全に女ではまだなく、見た目も際どかった時期には、周りからの目や心ない声は、やっぱりありました。だけど、凹んでも立ち止まってもいられませんでした。
だって、自分にはこの道しかないから。
馬鹿にされたり、気持ち悪がられたりするのは、嫌でしたし、本当に悔しかったです。
20年近く前ですから、トランスジェンダーなんて言葉もなかったかな?
少なくとも、私は知らなかったし、トランスジェンダーに対する認識は、女装かオカマかニューハーフくらいしかありませんでした。
綺麗ならニューハーフ、明らか男ならオカマとか女装とか、適当な概念が自分勝手に渡り歩いていました。
「お前はまだまだ男にしか見えないから、オカマやな!」とか、普通にお客さんから言われます。
「あんまり、いじめないでくださいよ。興奮して、勃っちゃったじゃないですか。私、Mなんで。てか、私のこと狙ってるでしょ?」
「アホか!俺はそういう趣味ないからな!やめろ!しばくぞ!」とお尻を抑える仕草をして、笑うお客様。
ベタな光景です。
これはまだ仕事だから、別にいいんです。こういう反応を見るのも嫌いではありませんでした。
むしろ、可愛く思えました。
ただ、外を歩いていて、全然知らない人から目の前に急に立たれ、顔をじっと見られて、
「ふん(噴き出す笑い)、やっぱり男やん笑」
すれ違いざまに、
「キモっ!あれ、ガチのカマやん。」
そんな時代です。
だけど、当時の私は自分が変わっていくしかないんだと、思っていました。
当時の私には、ニューハーフという仕事は、確かに厳しかったし、辛いことも多かったですけど、先輩や仲間がいたこと、先輩からメイクや女らしさを叩き込んでもらえたこと、元男であることを前提として働けたことで、お店にいる時や、お店の仲間といる時には、そこまでストレスを抱えることはなく、環境的には、当時としては良かったのかもしれません。
綺麗になれば、褒められる。
ダンスを頑張れば、褒められるし、応援してもらえる。
ダンスの出番が増えて、豊胸やSRSをする時にも、褒められるし、応援してもらえる。
SRSは、反対されることもありましたけど。
とにかく、トランスを馬鹿にされたり笑われたり否定でなく肯定してもらえたこと認めてもらえたこと、女ではないにせよ、それに近いニューハーフという形で、周りが接してくれたことは、特例法という発想すらなかった当時を生きていた私にはありがたい環境でした。
自力で去勢に10万、豊胸に50万、SRSに100万を、ホルモン注射メイクやお店の衣装や服や脱毛整形を除いて、欲しいものやりたいものを我慢して切り詰めた生活をして、最短でお金を貯めてパッパと手術を済ました。
身体を変えても、結局はニューハーフとして男として、周りに認識され、結局偽物でしかないと、虚しさというかなんか漠然とそんな思いを抱いていました。
いくら綺麗でも可愛くても、周りが私を見てくれるのは、元男だから。
ニューハーフは、元男なのに綺麗だったり可愛かったりするところが、魅力だから当然です。
以前、過去談にも書いたように、ニューハーフとしてではなく、会社や家族や周りからの理解を得て、女として生活する人との出会いが、私の人生を大きく変えました。
特例法が敷かれる前から、埋没していた先輩方はいましたから。
ニューハーフである元男であることを、相手にわかってもらって生きるしかなかった生き方から、女として、社会に溶け込んで生きることができるんだという事を知り、自分は前者でなく後者を求めているという事に気づきました。
特例法が敷かれると、すぐに必要な手続きを済ませて、戸籍を変えて、お金が良かったニューハーフの仕事を捨ててまで、女として生きることを選んだのは、その現れでしょう。
いくら偽物であると分かっていても。
DNAは変えられない!お前は男だ!女になれない!過去は変えられない!開き直れ!は、確かにそうです。
開き直る楽さも、私はニューハーフという業界にいたので経験したし、分かります。
それは、百も承知なんだけど、それでも元男の女ではなく、女として世間と関わりたいという人がいると思います。
私は、そうです。
少なくとも、開き直る楽さがあったから、確かに立ち止まらず、走り抜けられました。
だけど、その中には、私にとっての安住の地はありませんでした。
トランスジェンダーと一言に言っても、色々な人がいます。
トランスジェンダーとしてではなく、女として埋没する人、トランスジェンダーとして周りに開示して生きる人、ニューハーフとして生きる人などなど。
パスできてる人、うまくいかないと踠いている人、道半ばの人、何が正解なんてものはありません。
埋没してるのが正しいのか、開示するのが正しいのか。
互いが押し付けあったら、悲しさが残るんだと思います。
私なんかより、なかなか思い通りにいかない人や道半ばの人が、一番一番悲しい気持ちになると思います。
どっちの人も現に今を生きているんです。
一個人の感想にしか過ぎないですが、動画を見終えて感じたことは、もっと前向きに、楽しく生きるために、皆自分の決めたことを信じて選んだ道なんじゃないのかなと思いました。
そのために必要なら札使う。使いたくない人は使わない。札もパスも互いに押し付けない。シンプルにそれだけです。
生き方は人それぞれ。
どんな生き方だってあって、自分がどれを選ぶかだけで、どれが正しいなんてないと思います。
たまたま、私は埋没を選んだだけです。
だから、これが正しくて、あっちは間違ってるとなると、必ず敵対する関係になります。
でも、それって、ヘテロが正しくて、トランスジェンダーがおかしいと、いわゆるヘテロの人が言うかもしれません。
同じ事です。
そんな世の中は、嫌です。
皆それぞれに価値観や考えがあるから、お互いに尊重まではいかなくても、知ることからでもできたらなと私は思います。
元々の性別を明かして望む性で生きる人、ニューハーフとして生きる人、埋没して生きる人や、もっと色々な生き方があると思います。
皆がそれぞれに緩く毎日同じ繰り返しでつまらないとため息つけるくらい平凡に生きていける日が来ると良いなと私は思います。
埋没を望む人には、その人なりの考えがあります。
開示して生きる人にも、その人なりの考えがあります。
その人が、自分らしく生きていくために選んだ道なんだから、どっちでもいいじゃないのさ!
それで、その人が幸せになれるのなら。
拙い文章で申し訳ありません。
前回と今回綴ったことが、私が性同一性障害の札について感じ思ったことです。
それから、当事者同士でぶつかり合うんじゃなくて、どうしてもうまくいかないと踠いている人、道半ばの人に対して、ボイトレとかメイクとか服装容姿など、色々アドバイスするとか、間接的に当事者じゃない人にトランスについての話題で、実際バラエティで描かれるような姿が全てじゃないと話すとか、そういう助け合うとまではいかなくても、そういうのがあればいいなと思いました。
あくまで一個人の意見ですが、札について知り、感じたことをまとめました。
とりあえず、今日はこんなところで。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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関連動画

性同一性障害の札について、ブログで書かせていただいた記事ですが、長文過ぎて読むのが苦痛になるかもと思い、動画でもお伝えできればと思い、お話しさせていただきました。20分近くあり、こちらも長いですが、最後まで聞いていただけたらと思います。(2019年11月25日追加)
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